八巻 元子文筆家

八巻 元子

梶田泰嗣さんから電話をいただいた。なんでもホームページを一新するとのこと。それにあたり、推薦文を新たに書いてほしいとのご依頼だ。前回、書かせていただいたのは数年前。あれから泰嗣さんも私も齢を重ねただけでなく、いろいろ変遷があったから感慨もひとしおである。

それはさておいて、現在の私は絵に描いたような独居老人。後期高齢者の一歩手前。昔は五人の子供たちと夫のお弁当作りや炊事洗濯に追われていたのが格段の差だ。いちばん大きな違いは毎日の食事かしらね。食べる時間も献立も自由だし、いくらでも手を抜いて外食も思いのまま。とはいえ年金生活者のご多聞に漏れず贅沢三昧はできない。だが、お金を惜しまないことにしていることが二点。それは出し昆布と調味料である。

昆布は、十数年前にご縁を得た大阪『こんぶ土居』の土居成吉さんから教えていただいた天然真昆布を使っている。昆布のなかでも最高級とされる真昆布のしかも天然物だから高価だが、雑味のない清澄な味わいは代えがたい。味が有って無い味といえばいいだろうか、まさしく禅味。私は、これをあらゆる味覚の源と位置付けているので出汁を引くたびに幸福感を覚えるのだ。ちなみに泰嗣さんとのご縁も土居さんが深く関わっている。

さて二点目の調味料。大手の大量生産のものは遠ざけ、伝統製法を守る製品を選んで使う。たいがいそういう生産者は細々と、しかしプライドを胸に歯を食いしばって頑張っているところが多い。いかに微力だろうと応援し続けたくなるのが人情というもの。巽醤油がその代表だろう。

梶田商店十三代目の泰嗣さんに醤油の話をさせたら、おそらく一晩中でもしているに違いない。何度となく拝聴しているが、飽きるどころかその度に面白くて聴いているとワクワクするからふしぎ。といっても取り立てて話が上手というわけではない。泰嗣さんには夢や希望があふれるほどあって、その一つ一つを具現化するために文字どおり東奔西走よく動く。その圧倒的な体験から得た学びこそ本物の知識。まったくの門外漢でも、いや門外漢だからこそワクワクするのだろう。齢こそ息子同然(事実、泰嗣さんは私を”お母さん“と呼んでくれる)であるが、いつも教えられ勇気をいただく。

八巻 元子

プロフィール

1944年和歌山県白浜生まれ
1947年神奈川県鎌倉市に移転して現在に至る 
1997年~2008年 
料理季刊誌『四季の味』の編集スタッフを経て編集長を務める
父は初代編集長の森須滋郎 3男2女の母 孫9人
リタイア後は食に関するワークショップや文筆活動をメインに活動

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